ラベル オキシコドン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル オキシコドン の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/02/01

ポール・ルルー ダークサイトの新しい麻薬王




<ノンフィクション作家のエレーン・シャノンが語る、世界を混乱に陥れる新手の組織犯罪の脅威>

凶悪犯と麻薬について書かせたら、この人の右に出るライターはまずいない。

ニューズウィークとタイムの元ベテラン記者、エレーン・シャノン。メキシコの麻薬王と腐敗した警察の癒着を暴いた88年刊行の『デスペラードス』で、一躍この分野の第一人者となった。映画監督のマイケル・マンがこの本をドラマ化したNBCのミニシリーズ『ドラッグ・ウォーズ/麻薬戦争』はエミー賞を受賞。続編もエミー賞にノミネートされた。

シャノンの新刊『ルルー狩り(Hunting LeRoux)』(ウィリアム・モロー社)も、マンが映画化する。巨大犯罪組織を率い、サイバー犯罪にも手を染めた新手の凶悪犯ポール・ルルーを追い詰める米麻薬取締局(DEA)の死闘を活写したドキュメンタリーだ。

ローデシア(現ジンバブエ)で生まれた希代の天才大悪党ルルーと彼が築いた犯罪帝国について、本誌メアリー・ケイ・シリングがシャノンに話を聞いた。
***

――ルルーを知ったのは?

ヘロインが戦争とテロの資金源になっている現状を書こうと、アフガニスタンで取材を進めていた。私の知る限りでは、イスラム原理主義勢力タリバンは資金の90%をヘロインで得ている。

そんなとき知り合いの捜査官が今までにないタイプの大物を追っていると話してくれた。それを聞いてすぐさま方針転換し、ルルーについて調べ始めた。

――ルルーは従来の麻薬密売人のイメージとは違う。彼が目指すのはコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルとロシアの武器商人ビクトル・ボウト、それにアマゾンCEOのジェフ・ベゾスだと、あなたは書いている。

そう。でも、それだけじゃない。先を読む目がずば抜けている。その証拠に早い段階でコカインに見切りをつけた。彼が麻薬ビジネスに乗り出した04年には、アメリカではコカインの使用は減り始めていた。一方で処方薬──当時はまだそう呼ばれていなかったが、オピオイド系鎮痛剤の使用は増え始めていた。


ルルーは、アメリカ人が好きな2つのことを組み合わせれば、いくらでも儲かると考えた。その2つとはピルとオンラインショッピング。錠剤型のオピオイド系鎮痛剤の密輸を真っ先に始めたのは彼だ。だいぶたってからブームが彼に追い付いた。

――世界各地の紛争や戦争が生み出した「人材プール」があると、あなたは書いている。カネになるなら犯罪でも殺人でもやる連中がごろごろいる、と。


「傭兵のフェイスブック」という言葉を教えてくれたのは、南アフリカの情報機関の元高官。今はサイバーセキュリティーの仕事をしている人物で、いわゆる「善玉ハッカー」だ。彼によると、戦争中や軍事訓練中に人脈を築いた男たちが警備の仕事にありついているという。ここで言う警備とは傭兵のことだ。



アフガニスタンにいたとき、各国政府や軍隊の特殊任務に就いている人たちに話を聞いたが、これから厄介な事態になると、異口同音に言っていた。高度な技能を持ち、アドレナリンがばんばん出るような仕事をやりたがっている連中がいくらでもいるからだ。彼らは普通の仕事では満足せず、危ない橋を渡りたがる。そういう人間を雇う企業は限られているが、ルルーの組織はその1つだ。


――ルルーの名はあまり知られていないが。
アメリカ人は麻薬王と言えば、いかにも凶悪で派手な男を連想する。ダイヤをちりばめた銃を持ち、美女をはべらせ、メキシコの豪邸に住んでいるといったイメージだ。ドナルド・トランプ米大統領もそんな固定観念を持ち、国境の壁でそういう連中を閉め出せると思い込んでいる。

だが麻薬取引は以前とは様変わりした。武器密輸と結び付き、資金は中国やレバノンに流れる。レバノンのシンジケートがコロンビアのカルテルと手を組むといった状況だ。それを先取りしたのがルルーで、今のアメリカのオピオイド禍もそういう状況から生まれた。

――DEAは6年前にリベリアでルルーを逮捕し、司法取引で捜査に協力させた。

そう。DEAは彼の手下を検挙するために、彼に関する情報を全て極秘扱いにした。彼の存在や活動も、彼が牛耳るグローバルな犯罪帝国についても。

ルルーが雇った殺し屋は世界中どこにでも出没する。捜査当局はそのネットワークの全容をまだつかんでいない。実際、彼の傭兵の1人が私と話したいとメールを送ってきたばかりだ。

magw190508-drug02.jpg
DEAに逮捕された麻薬王ルルー(移送中の機内で) Derek Maltz Personal Collection
――それは本当か。ルルーは7件の謀殺を認め、恐怖支配で組織を統率してきた男だ。あなたの命が危ないのでは?

それはないと思う。むしろ情報提供者のことが心配だ。ルルーは復讐心が強い。

捜査官は彼がどこかに巨額の資金を隠しているとみている。香港にマンションを持っていて、中国の銀行にも口座があった。

香港当局は大量の金塊と爆薬の原料を押収したが、それが全てという保証はない。ルルーは一般の刑務所に移送されれば、今よりも外部と連絡が取りやすくなる。そのとき彼が何を指示するか予測不可能だ。

――彼には良心が欠けているようだ。北朝鮮から覚醒剤のメタンフェタミンを買い、北朝鮮は収益を核兵器開発に充てていた。

彼が北朝鮮から入手したメタンフェタミンは純度99.7%。覆面捜査官が録音したテープで、彼は北朝鮮の製造施設は1カ月に何トンもの高純度メタンフェタミンを生産できると豪語していた。私の計算では、末端価格で10億ドルにもなる量だ。

――あなたはDEAの捜査官、特に特殊部隊の第960班の活躍を詳述し、彼らに対する世論のイメージを覆した。

ルルーについて取材を始めるまで私もこの班のことをよく知らなかった。高度なスキルを持つチームで、グローバルな地下経済に網を張っている。

裏の世界では、多くの悪人が多種多様な悪事を働き、カネとモノを活発に動かしている。一般市民は地下経済の存在に気付かないだけだ。とんでもなく恐ろしい事態が起きるまで......。

――ルルーが逮捕されたのは?
彼は(メキシコの)シナロア・カルテルとの取引を渋っていた。彼らは怠け者の上に強欲で、高値を吹っ掛けてくる、と。それに比べ紳士然として、ビジネスを心得たコロンビア人を信用したのだが、それが運の尽きだった。彼がコロンビアのカルテルの頭目だと思い込んでいた男はDEAの回し者だった。

――グローバルな地下経済の世界には、第2、第3のルルーがいるのではないか。
そう、まだ逮捕されていないだけだ。今の世界は私の子供の頃よりも不安定になっている。戦争はカネになるし、麻薬と武器の密輸組織は地域を不安定化させようとする。そのほうが仕事をしやすいからだ。

ルルー同様、今どきの犯罪組織の幹部はシリコンバレーの起業家並みに時代を先読みする。ろくに教育を受けていないヤクザだと思ったら大間違いだ。そこを理解していないと、彼らのやりたい放題になる。

2019/09/21

アメリカのオピオイド乱用問題で日本のがん患者が医療用麻薬の使用に怯える必要はない


SOURCE元
https://news.yahoo.co.jp/byline/otsushuichi/20190919-00143218/
記事


___________________________


オキシコドンを知っていますか?

オキシコドン。
がんの痛みを患った方やそのご家族にとっては、比較的知られた名前だと思います。
痛み止めに用いられる医療用麻薬であり、オピオイドという薬です。医療用麻薬は多くが、身体の中のオピオイド受容体という部位に作用して効果を発揮します。そのため日本では、一部の薬を除き、医療用麻薬とオピオイドは重なります。
オキシコドンは2015年に、トヨタの元役員が国際宅配便の小包に同薬剤を入れて輸入した疑いで逮捕された事件もあって、その際も話題になったので、それで知っている方もいるかもしれません。
このオキシコドンを開発したアメリカのメーカーであるパーデュー・ファーマが破産申請したと数日前に報じられました。
上の記事タイトルにあるように、“オピオイド問題”での訴訟でパーデュー・ファーマは破産申請に至ったのです。
いったい何が問題になっているのでしょうか?

アメリカの深刻なオピオイドの乱用

結論から言えば、パーデュー・ファーマはあの手この手で、オキシコドンを売ろうとしたのです。
しかもワシントン・ポスト紙等が詳細に報じているように、政治家を動かして、DEA(アメリカ麻薬取締局)の同薬等の乱用取り締まりの力を弱めました。特に2016年成立の法案がDEAの同問題への対処能力を弱体化したと指摘されています。
製薬会社の様々な施策と、それに影響された医師や政治家ばかりではなく、アメリカの医療制度の特徴、制度、文化、社会経済的傾向がすべて医療用麻薬の乱用に貢献してしまったという見解もあります。
そしてこの状況は日本とは正反対と言えるものです。それなので日本には当てはまらない事象ですが、アメリカではそれが起こってしまったのでした。
結果、どうなったか。
オキシコドン等の処方された医療用麻薬を求めていた人たちは、次にヘロインに、その次に現在はフェンタニルに流れ、2017年にはオピオイドの過剰摂取で4万7千人以上が亡くなっているというのです。
ヘロインもフェンタニルも同じオピオイドですが、フェンタニルは量あたりの効果が強いので、危険性が高いです(注;日本で処方薬を指示された用量を守って使用するのと違い、乱用した場合の話です)。
しかも興味深いのは、このフェンタニルがどこから来ているのか、という点です。
メキシコを経由していますが、アメリカに流れてくるフェンタニルのほとんどは中国で生産されていると米国当局者は指摘しています。
昨今、米中の貿易摩擦が報じられていますが、フェンタニルについてもトランプ大統領と習主席の会議で話し合われ、中国側は規制を約束するも、実際は実施していないとのこと。大国同士の関係は一筋縄ではいきません。

日本のがん患者には当てはまらない

先述したように、日本とアメリカはかなり状況が異なります。
元々日本は医療用麻薬の適正使用量と比べると、実消費量が少ないことが知られています。
世界の中でも、我慢する傾向が強いのです。
がんの患者さんは幸いにして、指示された一般的な使用法を遵守する限り、「やめられない止まらない」状態になるリスクは非常に低いです。私も2000人以上に医療用麻薬を処方してきましたが、がんの痛みがある患者さんの場合はいないに等しいです。
そのメカニズムは、動物実験では確かめられており、「炎症のある痛み」の場合は依存が形成されにくいことがわかっています。がんの痛みはしばしば、炎症によっての痛みであるため依存は形成されにくいです。
けれども痛みは炎症から来るとは限りません。
特にがんではない原因からの慢性痛の場合はしばしば、炎症などが原因ではなく、脳の変化が関連しているとされています。
このような場合は、医療用麻薬の使用が適正ではないケースも多くあります。
アメリカではそのような痛みにまでオピオイドを使用し、様々な社会的な状況も後押しして、今に至るわけです。
日本では、がんでもがんでなくても、押しなべて医療用麻薬の使用に慎重姿勢でしたので、現在オピオイド薬のまん延は起きていません。
がんの痛みがある患者さんはもっと安心して医療用麻薬を用いて良いと考えます。
一方で、がんではない痛みには従前通り慎重に判断し、薬だけではなく理学療法や心理学的アプローチなどを組み合わせてゆくことが大切でしょう。
薬のみならず様々な方法を行ってゆくことが重要だとされているためです。

まとめ【がんの痛みの医療用麻薬治療は安心して受けて頂くのが良いでしょう】

しばしば諸報道で流れる、アメリカのオピオイド事情、すなわち「依存者や死亡者が増え社会問題化している、それなのでオピオイドはとても危険!」という話は、日本では現状当てはまっていません。
北米などの海外の情報をもって、日本のがんの痛み治療で使用されるオピオイドまで同じに考えないことが重要です。
安心して治療に臨み、痛みはくれぐれも過少申告しないでしっかり緩和されるようにしてください。
また今の所は、日本で医療用麻薬が広範な痛みに関して見境なく使われるようになることは考えにくいです。
けれども、医療用麻薬指定ではないオピオイドのトラマドールやブプレノルフィン、また医療用麻薬やオピオイドではなくても神経痛の治療薬のプレガバリンなどは、整形外科等の広い診療科で処方されています。
痛みは複雑で、特に慢性の痛みは痛み止めだけですっきりいかない場合もありますし、長期使用の弊害が上回ってしまうこともあります。
一方で、積極的に医療用麻薬を使用してもメリットが上回るがんの痛みなど、様々な病態がありますので、ぜひ専門家(がんの痛みならば緩和ケア医、がんではない慢性の痛みならばペインクリニック医や痛み外来の医師など)によく相談し、適切な治療を受けるようにすると良いでしょう。
薬は使い方が肝心で、悪い条件が揃うと依存が社会問題化する―その怖さを改めて教えてくれるのが北米のオピオイド危機です。
一方で日本は世界の中でもその対極の位置にあり、北米の状況をもって医療用麻薬は怖いと判断するのではなく、がんの痛みに正しく使用する限りにおいては怖くない、我慢を止め痛みから解放されることがより良い生活の質につながる、という事実がより知られると良いと考えます。