2019/05/11

世界の闇社会を牛耳る、頭脳派麻薬王を追え!

(Source元)
2019年5月8日(水)18時00分
メアリー・ケイ・シリング

<ノンフィクション作家のエレーン・シャノンが語る、世界を混乱に陥れる新手の組織犯罪の脅威>
凶悪犯と麻薬について書かせたら、この人の右に出るライターはまずいない。
ニューズウィークとタイムの元ベテラン記者、エレーン・シャノン。メキシコの麻薬王と腐敗した警察の癒着を暴いた88年刊行の『デスペラードス』で、一躍この分野の第一人者となった。映画監督のマイケル・マンがこの本をドラマ化したNBCのミニシリーズ『ドラッグ・ウォーズ/麻薬戦争』はエミー賞を受賞。続編もエミー賞にノミネートされた。
シャノンの新刊『ルルー狩り(Hunting LeRoux)』(ウィリアム・モロー社)も、マンが映画化する。巨大犯罪組織を率い、サイバー犯罪にも手を染めた新手の凶悪犯ポール・ルルーを追い詰める米麻薬取締局(DEA)の死闘を活写したドキュメンタリーだ。
ローデシア(現ジンバブエ)で生まれた希代の天才大悪党ルルーと彼が築いた犯罪帝国について、本誌メアリー・ケイ・シリングがシャノンに話を聞いた。
***

――ルルーを知ったのは?

ヘロインが戦争とテロの資金源になっている現状を書こうと、アフガニスタンで取材を進めていた。私の知る限りでは、イスラム原理主義勢力タリバンは資金の90%をヘロインで得ている。
そんなとき知り合いの捜査官が今までにないタイプの大物を追っていると話してくれた。それを聞いてすぐさま方針転換し、ルルーについて調べ始めた。
――ルルーは従来の麻薬密売人のイメージとは違う。彼が目指すのはコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルとロシアの武器商人ビクトル・ボウト、それにアマゾンCEOのジェフ・ベゾスだと、あなたは書いている。
そう。でも、それだけじゃない。先を読む目がずば抜けている。その証拠に早い段階でコカインに見切りをつけた。彼が麻薬ビジネスに乗り出した04年には、アメリカではコカインの使用は減り始めていた。一方で処方薬──当時はまだそう呼ばれていなかったが、オピオイド系鎮痛剤の使用は増え始めていた。
ルルーは、アメリカ人が好きな2つのことを組み合わせれば、いくらでも儲かると考えた。その2つとはピルとオンラインショッピング。錠剤型のオピオイド系鎮痛剤の密輸を真っ先に始めたのは彼だ。だいぶたってからブームが彼に追い付いた。
――世界各地の紛争や戦争が生み出した「人材プール」があると、あなたは書いている。カネになるなら犯罪でも殺人でもやる連中がごろごろいる、と。
「傭兵のフェイスブック」という言葉を教えてくれたのは、南アフリカの情報機関の元高官。今はサイバーセキュリティーの仕事をしている人物で、いわゆる「善玉ハッカー」だ。彼によると、戦争中や軍事訓練中に人脈を築いた男たちが警備の仕事にありついているという。ここで言う警備とは傭兵のことだ。
アフガニスタンにいたとき、各国政府や軍隊の特殊任務に就いている人たちに話を聞いたが、これから厄介な事態になると、異口同音に言っていた。高度な技能を持ち、アドレナリンがばんばん出るような仕事をやりたがっている連中がいくらでもいるからだ。彼らは普通の仕事では満足せず、危ない橋を渡りたがる。そういう人間を雇う企業は限られているが、ルルーの組織はその1つだ。

――ルルーの名はあまり知られていないが。
アメリカ人は麻薬王と言えば、いかにも凶悪で派手な男を連想する。ダイヤをちりばめた銃を持ち、美女をはべらせ、メキシコの豪邸に住んでいるといったイメージだ。ドナルド・トランプ米大統領もそんな固定観念を持ち、国境の壁でそういう連中を閉め出せると思い込んでいる。
だが麻薬取引は以前とは様変わりした。武器密輸と結び付き、資金は中国やレバノンに流れる。レバノンのシンジケートがコロンビアのカルテルと手を組むといった状況だ。それを先取りしたのがルルーで、今のアメリカのオピオイド禍もそういう状況から生まれた。
――DEAは6年前にリベリアでルルーを逮捕し、司法取引で捜査に協力させた。
そう。DEAは彼の手下を検挙するために、彼に関する情報を全て極秘扱いにした。彼の存在や活動も、彼が牛耳るグローバルな犯罪帝国についても。
ルルーが雇った殺し屋は世界中どこにでも出没する。捜査当局はそのネットワークの全容をまだつかんでいない。実際、彼の傭兵の1人が私と話したいとメールを送ってきたばかりだ。

――それは本当か。ルルーは7件の謀殺を認め、恐怖支配で組織を統率してきた男だ。あなたの命が危ないのでは?
それはないと思う。むしろ情報提供者のことが心配だ。ルルーは復讐心が強い。
捜査官は彼がどこかに巨額の資金を隠しているとみている。香港にマンションを持っていて、中国の銀行にも口座があった。
香港当局は大量の金塊と爆薬の原料を押収したが、それが全てという保証はない。ルルーは一般の刑務所に移送されれば、今よりも外部と連絡が取りやすくなる。そのとき彼が何を指示するか予測不可能だ。
――彼には良心が欠けているようだ。北朝鮮から覚醒剤のメタンフェタミンを買い、北朝鮮は収益を核兵器開発に充てていた。
彼が北朝鮮から入手したメタンフェタミンは純度99.7%。覆面捜査官が録音したテープで、彼は北朝鮮の製造施設は1カ月に何トンもの高純度メタンフェタミンを生産できると豪語していた。私の計算では、末端価格で10億ドルにもなる量だ。
――あなたはDEAの捜査官、特に特殊部隊の第960班の活躍を詳述し、彼らに対する世論のイメージを覆した。
ルルーについて取材を始めるまで私もこの班のことをよく知らなかった。高度なスキルを持つチームで、グローバルな地下経済に網を張っている。
裏の世界では、多くの悪人が多種多様な悪事を働き、カネとモノを活発に動かしている。一般市民は地下経済の存在に気付かないだけだ。とんでもなく恐ろしい事態が起きるまで......。



――ルルーが逮捕されたのは?
彼は(メキシコの)シナロア・カルテルとの取引を渋っていた。彼らは怠け者の上に強欲で、高値を吹っ掛けてくる、と。それに比べ紳士然として、ビジネスを心得たコロンビア人を信用したのだが、それが運の尽きだった。彼がコロンビアのカルテルの頭目だと思い込んでいた男はDEAの回し者だった。
――グローバルな地下経済の世界には、第2、第3のルルーがいるのではないか。
そう、まだ逮捕されていないだけだ。今の世界は私の子供の頃よりも不安定になっている。戦争はカネになるし、麻薬と武器の密輸組織は地域を不安定化させようとする。そのほうが仕事をしやすいからだ。
ルルー同様、今どきの犯罪組織の幹部はシリコンバレーの起業家並みに時代を先読みする。ろくに教育を受けていないヤクザだと思ったら大間違いだ。そこを理解していないと、彼らのやりたい放題になる。
記事抜粋

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